INTERVIEW

“lynch.史上最大規模のライヴ”

ー まずは幕張メッセでの記念すべきライヴを終えての感触から聞かせてください。

玲央lynch.史上最大規模のライヴをやらせてもらったわけなんですけど、終わって真っ先に思ったのは、もっと大きなところでやってみたいということでした。これまでも漠然と持っていたそういう欲が、あのステージを経験したことでいっそう強いものになったという感じです。同時に、バンドを長く続けていくうえで、大きな会場でやることが絶対的に必要だということを改めて痛感させられました。

もちろんライヴハウスでやることを止めるつもりはまったくありませんけど、大きな会場でしかできないライヴを観てもらうことで、僕らを支えてくれている人たちに「こんな大きな会場が似合うバンドになったんだね。嬉しいよ」と言ってもらえることが、僕ら自身のモチヴェーションにも繋がるので。

玲央

晁直あの規模での初めてのライヴだったわけで、当然ながらベストは尽くせたと思うんですけど、実際にやってみないとわからない部分というのが多くて。ただ、そこで改善できる点も見つかったというか、選択肢が増えたという感覚があります。ああいった大きな会場でやる場合、ライヴハウスではあり得ない要素というのがあるから、そこについては自分たちとしても模索して慣れていかないといけないのかなと思うし、まだまだ進化への道が続いていくんだな、という感じですね。

晁直

悠介やっぱり3月11日ということで、どうしても7年前の記憶(=東日本大震災)というのが蘇ってくるところがあって。しかもそれが自分たちのメジャーでの最初の作品の制作当時のことで…。それから7年、地道に一歩ずつ階段を上がりつつも紆余曲折を経てきて、そのうえであの景色を見ることができたわけで。純粋に良かったなと思うし、なんとかあの場でネガティヴなものを払拭したいなというのもあったし。あの会場のなかには当然、あの時に傷を負った人もいただろうし、それは簡単に癒えるものではないだろうけども、その記憶を楽しいものに変換することができたら、という気持ちがあったので。そのためにも、とにかくまずは自分たちが楽しまないと、という気持ちでした。ただ、そこにずっと意識が向かっていたせいか、終わったあとの余韻が全然ないんです(苦笑)。なんかもう、次のことを考えてみたりとか。

悠介

ー なるほど。明徳さんは、いかがでしたか?

明徳これほど意味のあるライヴをすごく大きな会場でやった直後ということで、やり切った感というか燃え尽きた感みたいなものを味わうことになるのかな、と思ってたんですけど、むしろみんな「さあ、これからどうしよう?」という感じになっていて。やっぱりこうして常に立ち止まることなくずっと進んで行くことになるんだな、と思えたし、それはすごいことだなって改めて感じさせられて。それはバンドとして当たり前のことなのかもしれないけど、当たり前のことの重大さ、ありがたさというのをすごく実感してるし、こうして当たり前の日常が戻ってきたことを、すごく嬉しく思ってます。

明徳

ー ライヴ終盤、葉月さんはステージ上で「夢が現実になった以上、未来はそれを超えていくためだけにある」と言っていましたよね?確か葉月さん自身はあまり事前にMCを用意していかないはずですけど、あれはあの瞬間に感じていたことだったんですか?

葉月そうですね。ホントにライヴが、純粋にものすごく楽しくて。MCでも言わせてもらったように、ホントに夢みたいな景色だったんですね。僕がずっと夢見てきたものが現実としてそこにあったということが、ホントに嬉しくて。そういう気持ちがあるのと同時に…これまで幕張メッセというものに向かってみんなで頑張ってきたわけじゃないですか。ファンもスタッフも含め、絶対それを成功させるぞというパワーが常にあった。で、それが終わった今となっては、次の目標というのが欲しいんです。いつかどこかでやれたらいいね、という話じゃなく、先にそれを決めてそこに向かっていきたいんです。今の状態のままでやれるようなことを目指すわけじゃないから、当然ながら自分たちがデカくなっていかなきゃいけないわけじゃないですか。だから、これからが大変だぞ、という気持ちと、やんなきゃな、という気持ちが両方ありますね。

葉月

“すでに成立してるものに対するリスペクトを込めて”

SINNERS ジャケット写真

「SINNERS -no one can fake my bløod-」2018年4月25日発売。lynch.の最新作。

ー 「そんなライヴと同時期に、『SINNERS -no one can fake my bløod-』と銘打たれた新作が4月に発売されることも発表されました。これは、『SINNERS-EP』と『BLØODY THIRSTY CREATURE』の全収録曲を明徳さんのベースに差し替え、全体的なリミックスを経た作品ということになるんですよね?

葉月ええ。でもまあ、ミックスについては微調整程度のものですね。ベースが変わったことによって生じた違いに伴う調整をしてるだけで、基本的なところは変わってません。

明徳ベース自体の録音は年が明けてから、2月に行ないました。正直、他の方たちのテイクが入った音源を最初に聴いた時は、すごく悔しかった。lynch.でこれまでプレイしたことのない人たちがこれほどのことをしてしまうのか、という驚きもあったし。もちろんカッコいいな、というリスナー的な感想もあったんですけど、それ以上に悔しい気持ちのほうが大きかった。

ー そこで自分のテイクをどんなものにすべきかという判断は、なかなか難しかったのでは?

明徳ええ。どう弾いても前の音源と比べられることになるだろうし、当初はもうすべて別モノにしようと思ってたんです。でも、レコーディングが近付いてくるにつれて、逆の考えになってきて。『SINNERS-EP』という作品はもう完成されたものとして存在してるわけじゃないですか。それを無理矢理わざと変えるんじゃなくて、むしろすでに成立してるものに対するリスペクトを込めて弾きたいな、という気持ちが強くなってきて。仮にまったく同じまま弾いても、弾いてる人間が違うんだし。だから、めちゃくちゃベース・ラインが変わったという感じではないはずなんですけど、ちょっとしたニュアンスだったり、そういったところで自分らしさも出せたんじゃないかと思います。

ー 『SINNERS-EP』に参加していた5人のベーシストが、自己主張ではなくあくまで曲のためのベースを弾いていたからこそ、そういう解釈になったのだろうと思います。

SINNERS-EP ジャケット写真

「SINNERS-EP」2017年5月31日発売。サポートベーシストとして、J、人時、T$UYO$HI(The BONEZ / P.T.P)、
YOSHIHIRO YASUI(OUTRAGE)、YUKKE(MUCC) が楽曲制作に参加。

玲央そうですね。皆さんそれぞれに、楽曲を立ててくださってたというか。バンドとしては明徳を戻して録り直したいという前提がありましたけど、実際問題、いつ戻ってこられるかわからない状態でしたから…。そんななかで、彼はよく頑張ってくれたなと思います。音源としてどう違うかというのを説明するのは難しいですけど、一言でいえば、僕の耳にはすごくスムーズに聴こえるんです。

晁直違うと言えば違うんだけど、細かいことに興味のない人はその差に気付かないかもしれない(笑)。これを言ったら身も蓋もないかもしれないけど。でも、明徳が新たに録り直した音源を聴いたことで、以前の音源でのそれぞれのベーシストの個性がより理解できたというのはありますね。

悠介バンドのなかでの馴染みの良さというのは単純にありますよね。そういう意味でも、当たり前のものが戻ってきたみたいな感覚というのはあります。あとはやっぱり明徳自身が上手くなってるな、というのがあって。彼は「三倍上手くなってます」とか言ってたんですけど(苦笑)、そこまで言うだけのことはあるな、と思いましたね。バンドを離れていた間も腐ることなく頑張ってくれていたんだな、と。

ライブ写真

明徳実は今回、人時さんにとてもお世話になっていて。前々から交流はあったんですけど、去年の8月頃にお話をさせていただいた時、その時点ではまだ自分がバンドに戻れるのかどうかもわからなかったんですけど、「もしこれからも音楽をやりたいんだったら、ちゃんともう一回ベースと向き合って練習して、仮に先は見えないままだろうと準備をしておいたほうがいい」と言ってくださって。それで実際、人時さんのご自宅に何日か泊りがけでお邪魔して、そこで合宿みたいな感じで稽古をつけていただいてたんです。その期間は、人時さんの手料理もご馳走になって(笑)。そこでホントにいろんなことを試して、lynch.の曲を改めていろんなパターンで録ってみたり、そこで自分のアラとかクセとかについて確認してみたり、こういう傾向があるね、というのを改めて解析してもらったり。さらには譜面の読み方だったり、リズムの取り方だったり、本当に音楽の授業みたいにいろいろと教えていただいて…。

ー 大晦日にZepp Nagoyaで行なわれたカウントダウン・ライヴの際、人時さんから明徳さんにベースが手渡される場面がありました。すごくドラマを感じましたけど、それ以前にそうした流れがあったんですね。

lynch.COUNTDOWN LIVE「2017-2018」

2017年12月31日から年明け1月1日にかけて開催した『lynch.COUNTDOWN LIVE「2017-2018」

明徳ええ。すごく気にかけてくださって。本当にもう、感謝しかないです。だからこそ、教わったことはちゃんと自分のものにしていかないといけないな、と思います。

“ポジションを獲りに行くための1枚”

ー そして幕張メッセでのライヴ終演後には、『AVANTGARDE』に続くオリジナル・フル・アルバムが7月に出るという情報が解禁になりました。

「AVANTGARDE」2016年9月14日発売フルアルバム。

「AVANTGARDE」2016年9月14日発売フルアルバム。

玲央そのアルバムで、また世界観は変わることになると思います。『SINNERS-EP』と『BLØOD THIRSTY CREATURE』は、『AVANTGARDE』に続くものという感じではなく、あの当時の状況が反映された、あの時にしか作り得なかった作品だった気がするんです。それに対して次作というのは、ホントに5人に戻ったlynch.がフラットな状態で作るものというか。

葉月そう。ここ一連のことは、まさに急に訪れたピンチだったわけじゃないですか。あの2枚での自分たちは、それを乗り越えるのに必死だったという感じ。だからあんまりアルバムの流れに沿ってないというか、ある意味、異質な作品だったと思う。去年1年がlynch.にとって異質だったともいえるわけですけど、それを象徴するような作品だったというか。そして、その流れが今回の『SINNERS -no one can fake my bløod-』で完結する。だから今になってlynch.に興味を持ち始めた方たちにとっては、まずはこのアルバムでここ1年のことを消化してもらえるといいんじゃないか、とも思いますね。

玲央もっと言ってしまうと、このアルバムと、2015年に出したベスト盤を聴いてもらえれば、僕らのこれまでの歴史がより濃くわかるんじゃないかと思います。その両方を手にしてもらえれば、次にライヴに足を運んでもらう時にも有効なんじゃないかな、と。

ー そうしてこれまでの歴史を踏まえながら、次のアルバム完成を楽しみにしています。

葉月期待していてください。もうすでに何曲かあるんですけど、これまた幕張メッセのステージでも言ったように「化粧をした激しいバンドで一番になる」つもりでいるんです。僕は完全にそこを意識してます。次のアルバムは、そのポジションを獲りに行くための1枚になりますから。

「10th ANNIVERSARY 2004-2014 THE BEST」

「10th ANNIVERSARY 2004-2014 THE BEST」2015年3月11日発売。全36曲収録の10周年記念ベストアルバム。

Text by You Masuda